3月7日(金)に明治座にて開幕するミュージカル『屋根の上のヴァイオリン弾き』。1967年に帝国劇場で日本初演を迎え、半世紀以上にわたって受け継がれてきた不朽の名作です。テヴィエ役を今回で7演目となる市村正親さん、妻・ゴールデ役を2009年以来の出演となる鳳蘭さんが務めます。
「陽は昇り、また沈み、時うつる」
ショーレム・アレイヘムの短篇小説『牛乳屋テヴィエ』を原作に、『ウエスト・サイド・ストーリー』演出・振付を手がけたジェローム・ロビンス氏がオリジナルプロダクション演出・振付を務めたミュージカル『屋根の上のヴァイオリン弾き』。1964年ブロードウェイで初演され、トニー賞ミュージカル部門の最優秀作品賞、脚本賞、作曲賞など7つの賞を獲得、8年間の記録的なロングランを達成しました。

日本では1967年に帝国劇場で日本初演を迎え、森繁久彌さん、西田敏行さんがテヴィエを務め、2004年から市村正親さんがそのバトンを受け継いでいます。市村さんは2004年、2006年、2009年、2013年、2017年、2021年に続いての7演目。妻のゴールデを2009年以来の出演となる鳳蘭さんが演じます。

舞台は1905年の帝政ロシア時代、ユダヤ人たちが住む村アナテフカ。酪農業を営むテヴィエは妻のゴールデ、5人の娘たちと貧しいながらも賑やかに暮らしています。

仲人が結婚相手を見つけ、父親が了承するという古いしきたりが残る中で、長女のツァイテルは金持ちで肉屋のラザールからの縁談を断り、恋仲の仕立て屋モーテルとの結婚を許してくれるようテヴィエに懇願します。ツァイテルとモーテルの想いに動かされ、結婚を許すテヴィエ。
次女ホーデルは革命を志す学生のパーチック、三女チャヴァはロシア人学生のフョートカに惹かれる中、ロシア人によるユダヤ人への仕打ちが酷くなっていき…。

市村正親さんは、亭主関白に見えてゴールデに頭が上がらず、チャーミングなパパ・テヴィエを好演。娘たちの思いに「しきたりを破ったら、俺たちの民族はどうなる?」と自問し戸惑いながらも、目の前にいる家族や人々を大切に思い、想像し、少しずつ変化していきます。

テヴィエは神に「戦争や革命、疫病でお忙しいのは分かりますけど」と前置きした上で、一生懸命に働く貧しい人々を気にかけてくれても良いのではと呼びかけます。どんなに神に祈っても変わらない貧しい暮らし。1905年が舞台の作品でありながら、今の世界情勢や日本に通じる言葉です。
鳳蘭さんは家族たちをテキパキとまとめ上げ、娘を思う愛情深いゴールデに。市村さんのテヴィエとは阿吽の呼吸で、時にコミカルに、時に深みある芝居を魅せていきます。

新しい時代を象徴する存在となる三人の娘は、長女ツァイテルを美弥るりかさん、次女ホーデルを唯月ふうかさん、三女チャヴァを大森未来衣さんが演じます。

長女ツァイテルと相思相愛の仕立て屋モーテル役は上口耕平さん。なかなか結婚を言い出せない頼りなさがありつつも、しっかり者のツァイテルとの抜群の相性が魅力的です。

次女・ホーデルと恋に落ちる学生・パーチック役は内藤大希さん。博識ながら恋には少し不器用なパーチックと、新たな環境に軽やかに飛び込むホーデル。ツァイテルとモーテルの結婚式で、2人が「男女が共に踊ってはならない」という結婚式のしきたりを飛び越えて踊る姿は、伝統を変えるしなやかさと美しさが印象に残ります。

三女チャヴァと駆け落ちするロシア人青年・フョートカ役は神田恭兵さん。フョートカは居酒屋でテヴィエたちに声をかけ、人種を超えて踊り合う瞬間を作る大切な存在。彼の行動力が隔たりのあるアナテフカを変えていきます。

金持ちの肉屋ラザール役は、2017年公演以来の出演となる今井清隆さん。抜群の存在感と歌声は心強く、市村さん演じるテヴィエと居酒屋で歌う「人生に乾杯(To Life)」はまさにレジェンドな瞬間。お二人の圧倒的な存在感に目を奪われます。

本作は伝統・しきたりが時代によって変わっていく姿を描きながらも、ユダヤの文化であるクレズマー風の音楽や特徴的なダンス、服装を美しくノスタルジックに描いていきます。独特に感じる世界観は、本作が放つ唯一無二の輝きに。また村全体が家族のように繋がり合う姿も印象的です。

私たちは再び、自分とは“異なる”民族を追い出す歴史を繰り返すのか。美しい音楽・ダンスシーンの数々と共に、愛情深く家族と向き合うテヴィエ一家は時代を超えたメッセージを投げかけてくれます。
新しい『屋根の上のヴァイオリン弾き』を
初日会見には市村正親さん、鳳蘭さん、美弥るりかさん、唯月ふうかさん、大森未来衣さんが登壇しました。

明治座への出演は、西村晃さんの付き人時代以来だという市村正親さんは「恥ずかしいんだけれども、錦を飾ったみたいで嬉しくて。(名前入りの)のぼりも恥ずかしくてまだ見られていない」と語ります。
鳳蘭さんは「ゴールデという役は代々宝塚の先輩がなさってきたので、それをできるのがとても光栄」と語ります。鳳さんものぼりが出るのは「長い舞台生活で初めて」とのこと。
美弥るりかさんは『屋根の上のヴァイオリン弾き』初出演にあたって、今まで客席から観ていた市村正親さん、鳳蘭さんのお二人の姿を稽古場で見て、「実在するんだ」という思いになったそう。「話しかけてくださったり、アドバイスをくださったり、役者人生の間にこんなことが経験できる日があるんだなと感謝しました。稽古を食い入るように見ていました」と噛み締めるように語りました。

2021年から続投となる唯月ふうかさんは「家族のシーンを初めてやった時、流れる空気感に“帰ってきたな”という気持ちになりました。パパのハグとママの愛に、ホーデルも、私自身も凄くエネルギーをいただきました。パパママありがとう」と感謝を言葉にし、これにはパパママもにっこり。家族の温かな空気が伝わります。

大森未来衣さんは「市村さんが娘たち5人を焼肉に連れて行ってくださいまして、楽しくお話ししていただきました」と明かします。鳳蘭さんは都合が合わず不参加だったそうですが、市村さんは「稽古場でのお芝居の中だけでなく、食べたり飲んだりすると家族の雰囲気が出来るので、行けて良かった」と想いを語りました。
「お芝居を続けていると、新しい発見も楽しい」と7演目のやりがいを語った市村さん。「新しい『屋根の上のヴァイオリン弾き』を明治座で届けたい。のぼりを見るついでに、お芝居を観にきていただけたら」とチャーミングに会見を締め括りました。

ミュージカル『屋根の上のヴァイオリン弾き』は3月7日(金)から29日(土)まで明治座にて上演。その後、富山・愛知・静岡・大阪・広島・福岡・宮城・埼玉での全国公演が行われます。公式HPはこちら

美しいダンスシーンの数々に魅了され、作品の世界観に惹きこまれました。フョートカの「追い出される者もいれば、黙って出ていく者もいる」という台詞にハッとしました。