関西演劇祭のフェスティバルディレクターを務める板尾創路さんが、演劇に携わる様々な方と語り合う対談企画。今回の対談相手は、ドラマ『家族ゲーム』で共演、大人計画や蜷川幸雄演出作品に出演してきた俳優でありながら、コロナ禍の演劇界への打撃を受けて演劇配信アプリ「KANGEKI XR(カンゲキエクスアール)」のリリースを8月下旬に控える内田滋さん。演劇界で新たな試みを行う2人が、エンタメの変化や演劇の未来について語りました。

生でしか味わえない空気やお客さんの反応、温度、湿度、音がある

−お二人は2013年にドラマ『家族ゲーム』で共演されて以来の仲だそうですね。
内田「ちょうど10年ですね。板尾さんはいつも優しく声をかけてくださって、良くしていただいています。実は今回の対談で、板尾さんが関西演劇祭のディレクターを務められていると初めて知りました。演劇に対して危機感みたいなものはありますか?」

板尾「特に関西はね。劇場がなくなってきたり、東京に出ちゃったり、芝居人口が少なくなっているので、なかなかみんな大変みたいで。関西演劇祭はあまりない形の演劇の見方やから面白いよ」

内田「東京でお芝居やっている劇団が関西で上演しようと思っても、劇場が少ないから取り合いになるというのはよく聞きます」

板尾「1劇団の上演時間が45分っていうのも、集中力も持ちやすいし良いよ」

内田「そうですよね。演劇を初めて見るときに、いきなり2時間〜3時間ってハードルが高いので、短い作品があっても良いなと思っていました。ぜひ今年は観に行かせてください」

−内田さんは8月下旬、演劇に特化した配信アプリ「KANGEKI XR(カンゲキエクスアール)」をリリースされます。板尾さんは前回、岩崎う大さんとの対談の中で、舞台を映像で見るのはなかなか集中できないとお話しされていましたが、どのような部分が映像で見にくい点でしょうか?

板尾「そうね。でも劇団かもめんたるの『君とならどんな夕暮れも怖くない』は見れたなぁ。スイッチングが上手だったな」

内田「スマホで見るって難しいですよね。生の演劇ってお客さんが自由な視点で観られる娯楽だから、お客さん自身が能動的にアクションしているように感じるんです。だから集中力が持続する。でも映像になると画角が決まってしまって受動的になるので、KANGEKI XRはズームアップ機能やギフティングで、お客さんが能動的に動く仕組みを作りたいと思っています」

板尾「確かに、お客さんが色々と触りながらだと今までとは違うかもね。演劇って元々野外から始まって、小屋でやるようになったけど、ずっとライブであることは変わらないから、それには勝たれへんとは思うし。動物園にパンダ見にいくのも、無意識やけど自分の見たいように見ているわけやから。景色を見にわざわざ観光しにいくのと一緒やからね」

内田「本当にそうですね。だからそこに行く人が増えるために、どうするか。パンダが上野動物園にいる雰囲気だけでも知って、“すごい、これ生で見たい”と思ってもらえるようなツールになって欲しいなと思っています」

板尾「KANGEKI XRはそうなると思うな。今後VRで劇場にいるかのような体験ができる時代も絶対に来るけど、空気とか、お客さんの反応とか、温度とか湿度、音とかはやっぱり現場に行かないと味わえないと思う」

演劇は「変わらん」。だから魅力がある

−「KANGEKI XR」は俳優へのギフティング機能が特徴の1つとなっており、関西演劇祭も若い俳優・劇団の活躍の場となっています。板尾さんは俳優が「もっとチヤホヤされても良いんじゃないか」とおっしゃっていましたが、若い俳優たちに提供していきたいものとは?

内田「最近はYouTubeやTikTokで活躍する人が増えてきて、それ自体は良いことなのですが、今までお芝居頑張ってきた人が活躍する場所がない気がしています」

板尾「役者ってどこまで行ってもアナログで、SNSに乗りにくいんよね。そこでYouTubeとかやってみてもなかなか結果が出ないのがもどかしい。でもそこが良いのかもしれんけどね。もうちょっと役者も演劇をやることが利益になったりプロモーションになったりしたら良いよね」

内田「そうなんですよね。役者や演劇自体はアナログで良くて、それを周りにいる僕らみたいな存在がどう電波に乗せていくかが大事だと思っています。それで利益が出るようになると、“こんなに稼げるんだ”という夢も出来てくる。今はネットで劇団は儲からないというのがすぐに分かるので、演劇を目指す子が減っているのも課題だと感じていて」

板尾「高校生で漫才やっている子も、プロになる気がない人が多いよ。大会に出るのも思い出作りなんだって。大会は一生懸命やるけど、終わったら解散して就職していっちゃう。よっぽど頑張らない限り飯を食われへんの分かっているからだろうね。“俺は面白いんや”っていう無鉄砲な感じじゃないよね」

内田「僕が俳優になった頃は根拠のない自信がありましたし(笑)、周りも無鉄砲な人ばかりでした。才能あるかもしれないのに、勿体無いですね」

板尾「時代の流れもあるからしょうがない部分もあると思うけどね」

−エンタメの世界に長くいて、昔との変化を感じることは?
内田「これはどこの業界でもあると思うのですが、ハラスメントみたいなワードが増えて、怒られながら厳しい環境で鍛えられる経験が減っているのかなぁとは思います。そういった経験が少ないと、生でのハプニングとかに対応する強いメンタルを持つのが難しいというのもあるのかなと。芸人さんはどうですか?」

板尾「芸人は人数が多くなったかな。昔はどうやって芸人になったらええんか分からなかったからね。学校もないし、師匠に弟子入りするなんてどうやって弟子入りしたら良いか分からないし。今はチャレンジしやすいし、勉強もできるから、絶対数が増えたことで才能のクオリティは上がっていると思う。みんな上手いし、どんどん新しい子が出てくるから、なかなか勝ち上がっていくのは難しいよね」

内田「絶対に役者や芸人になってやるぞという執念を持って、行動力もないと、売れないというのはありましたよね」

板尾「僕らは師匠に弟子入りしなくても漫才ができるようになった時期の走りだったから、僕らよりも前の人たちの方が行動力はあったかもな。僕は、お笑いはずっと好きで憧れはあったけど、自分がなれるとは思ってなかったからね」

内田「そうなんですか?」

板尾「うん。NSCという学校があったから芸人になれたけど、NSCがなかったら多分お笑いやってない。他にやりたい仕事がなくて、好きなお笑いをやっただけで。当時漫才ブームだったから、若い人でも若い人の言葉で漫才をしても通用するんだと知って、ひょっとしたら…と思って。学校なら入りやすいなと思ったんだよね。劇場に行って、師匠に“弟子にしてください!”って言いにいくスタイルが続いていたら、ハードルが高くてやってなかったと思う」

内田「そう思うと、時代が変わることで挑戦できる人も増えるのは良いことですね」

板尾「僕らが漫才やっていた時って、ピン芸人という概念もなかったからね。それが今では1人でやる人もたくさんいて、動画でバズったら売れることもあるわけだし。絶対数が増えて競争が増えているというのは感じるなぁ」

−そう思うと、演劇はずっと気軽に始められないものではありますよね。
板尾「もう、演劇は変わらん(笑)。見せ方は色々あるけど、根本は変わってないから」

内田「稽古も必要ですしね」

板尾「そう。いまだに台本見て、稽古してやらなあかん。だから良い芸になるし、お客さんも魅力を感じる。1つの芸術だからね」

撮影:山本春花

−今後の演劇界への想いをお聞かせください。

内田「演劇はこのままで良いと思うんです。でも僕らが補助をもっとしていくべきだと思う。演劇の良さを宣伝するための動きをしていくことで、演劇に熱量が集まる時代を創っていきたいです」

板尾「そうだね。演劇の本質は絶対変わらないけれど、制作側が時代に敏感に対応していくことは大事だと思う。だから2.5次元も凄く良いなと側から見ていると感じるんです。作る方が色々と時代を見据えてやっていかないとダメだなという気はしますね」

板尾創路さんがフェスティバルディレクターを務める関西演劇祭2023は、11月11日から19日までCOOL JAPAN PARK OSAKAにて開催。参加劇団と上演作品は公式HPをご確認ください。

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Yurika

お二人の演劇への愛情と、未来への期待を感じられる対談でした!内田さんが立ち上げた演劇配信アプリ「KANGEKI XR」は8月下旬リリース予定です。

板尾創路×演劇人 対談連載

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連載(6本)