ミュージカルの中でも映画化されている作品は、予習して観に行けるので世界観に入り込みやすいのではないでしょうか。また、映画版と見比べてみるのも、ミュージカルをもっと楽しむ方法のひとつ。そこで、この夏以降に公演予定のミュージカルから、映画版がある作品を4つ取り上げます。

生きる勇気と希望を与えてくれる『イン・ザ・ハイツ』

最初にご紹介するのは、2021年公開の映画『イン・ザ・ハイツ』。『ハミルトン』で絶賛されたリン=マニュエル・ミランダのデビュー作『イン・ザ・ハイツ』を映画化した作品です。ミュージカル版は、2008年度のトニー賞で最優秀作品賞を含む4冠を獲得しました。

舞台となるニューヨーク・ワシントンハイツは、移民の多い街。主人公のウスナビもドミニカ系の移民で、いつか故郷で暮らしたいと願っています。また、ヴァネッサとベニー、ニーナという3人の若者もそれぞれに夢を抱いていました。しかしある時、街の住人が住む場所を追われる危機に直面します。

厳しい現実と向き合いながらも、毎日懸命に暮らしているウスナビたち。そんな彼らの生き様を印象付けるのが、テーマ曲「イン・ザ・ハイツ」が流れるオープニングです。

軽快なラテンビートとラップ調の歌詞で観客を街へと誘う演出に、わくわくが高まります。さらに500人以上のダンサーによる群舞シーンは、まさに圧巻の一言。「何度でも立ち上がる」という力強いメッセージに、自然と勇気をもらえます。

ちなみに、監督のジョン・M・チュウは2025年春公開予定の映画『Wicked』でメガホンを取っているので、こちらも注目ですよ。映画『イン・ザ・ハイツ』はAmazon Primeほかで視聴可能です。

(関連記事:平間 壮一インタビュー!ブロードウェイミュージカル『イン・ザ・ハイツ』作品に流れる「温かさ」を大切に

男女の切ない愛の行く末を描いた『ムーラン・ルージュ』

2001年公開の『ムーラン・ルージュ』は、バズ・ラーマン監督によるミュージカル映画です。2002年のゴールデングローブ賞では最優秀作品賞を含む3部門を受賞し、同年のアカデミー賞でも8部門にノミネート。

そして2019年、ブロードウェイにて『ムーラン・ルージュ!ザ・ミュージカル』が上演され、トニー賞で10部門を受賞するほどの大ヒット作となりました。

19世紀末のパリ、作家志望の青年・クリスチャンはナイトクラブ「ムーラン・ルージュ」の高級娼婦であるサティーンと出会い、激しく愛し合うようになります。サティーンを手に入れようとする公爵に隠れて関係を続けるなか、2人の運命はどうなっていくのでしょうか。

主演を務めたユアン・マクレガーとニコール・キッドマンは、劇中で見事な歌声を披露。デュエットソング「Come What May」で「何があっても愛している」と歌い上げる2人の愛の深さに、思わず胸が切なくなります。また、マドンナやビートルズなど20世紀のポップミュージックをリミックスした音楽も耳に馴染みがあり、五感で煌びやかな世界観に浸れます。

映画『ムーラン・ルージュ』はAmazon Primeほかで視聴可能です。(関連記事:真っ赤に染まる夏が帰ってくる!『ムーラン・ルージュ!ザ・ミュージカル』囲み取材リポート

夢を諦めない少年の姿に励まされる『ビリー・エリオット』

2000年に公開された、イギリスの青春映画『ビリー・エリオット(邦題:リトル・ダンサー)』。監督のスティーブン・ダルドリーにとっては長編映画デビュー作でありながら、2001年のアカデミー賞で3部門にノミネートされています。

この映画を観て感動したエルトン・ジョンがオリジナルの楽曲を提供すると申し出たことから舞台化の話が進み、2005年にロンドンで開幕。トニー賞をはじめ、世界で80個以上の演劇賞を獲得するほど高く評価されています。

1984年、炭鉱不況に苦しむイギリス北部の町ダラム。主人公のビリーは数年前に母を亡くし、父と兄、祖母と4人で暮らしていました。父はビリーに逞しく育ってほしいとボクシングを習わせるのですが、ビリーはひょんなことからバレエに夢中になっていきます。

父の猛反対で一時はバレエを辞めさせられてしまうものの、どうしても諦めきれないビリー。周囲の理解者に支えられながら、ビリーはバレエダンサーになる夢を叶えるべく突き進みます。

1人の少年の夢が、やがて家族の、そして町全体の希望となっていく。諦めずに続けることの大切さを、改めて私たちに教えてくれる物語です。

映画『ビリー・エリオット』はAmazon Primeほかで視聴可能です。(関連記事:ミュージカル『ビリー・エリオット』西川大貴インタビュー!「全世代に観ていただきたい」

押し寄せる感情の波に共感できる『tick, tick…BOOM!』

名作ミュージカル『RENT』を生み出した作家・ジョナサン・ラーソンについて、詳しく知っている人は少ないかもしれません。映画『tick, tick…BOOM!』は、『RENT』の開幕前に急逝した彼の自伝ミュージカルが原作となっています。

2021年に劇場公開され、2022年度のアカデミー賞で2部門にノミネート。あの『イン・ザ・ハイツ』の原作者であるリン=マニュエル・ミランダが初めて長編映画の監督を務めており、ミュージカルとの深い縁を感じます。

1990年のニューヨーク、主人公のジョナサンはアルバイトで生計を立てながら、ミュージカル作曲家として成功することを夢見ていました。しかし、30歳を目前にして、夢よりも現実に目を向け始めた恋人や友人の姿に焦りを感じるように。ジョナサンは不安と葛藤を抱えたまま、一縷の望みをかけて創作活動を続けます。

夢を追いながらも時間だけが無情に過ぎていくとき、誰しも「自分はどうすればいいのか」と悩んでしまうはず。主人公の気持ちに共感するほど、ぐっと強く心を揺さぶられます。ブーン、という音とともに時計の針がゼロを指すとき、ジョナサンの未来はどうなっているのか、最後まで見届けましょう。

映画『tick, tick…BOOM!』はNetflixで視聴可能です。

(関連記事:ミュージカル『tick, tick…BOOM!』シアタークリエ初上演決定!薮宏太×梅田彩佳×草間リチャード敬太(Aぇ! group)

今回ご紹介したミュージカル映画は、いずれも日本でのミュージカル公演が決定、もしくはすでに公演を開始しています。チケットや公演スケジュールなど、詳細情報は各公式ホームページをご覧ください。

公演スケジュール
ブロードウェイミュージカル『IN THE HEIGHTS イン・ザ・ハイツ』2024年9月22日(日祝)~10月6日(日) 東京・天王洲 銀河劇場
その後、京都・名古屋・神奈川を巡演予定
『ムーラン・ルージュ!ザ・ミュージカル』2024年6月20日(木)~8月7日(水) 東京・帝国劇場
その後、大阪にて公演予定
ミュージカル『ビリー・エリオット~リトル・ダンサー~』2024年7月27日(土)~8月1日(木)※オープニング公演
2024年8月2日(金)~10月26日(土)
東京建物Brillia HALL (豊島区立芸術文化劇場)
その後、大阪にて公演予定
ミュージカル『tick, tick…BOOM!』2024年10月6日(日)~31日(木) 日比谷シアタークリエ
その後、愛知・大阪を巡演予定
もこ

ミュージカルと映画、どちらも製作された作品は、それぞれ異なる視点から楽しめるところが魅力です。観劇の前に、ぜひ一度映画版も観てみてくださいね!