ミュージカル『オペラ座の怪人』は、通算上演回数で国内第3位を誇る、劇団四季の金字塔です。1988年の日本初演以来、世代を超えて愛され続けてきた名作を、2026年4月に観賞してきました。わたしが観たことのある劇団四季作品は『キャッツ』だけ。「少し大人っぽすぎる演目を選んでしまったかもしれない」と、幕が上がるまでは少し不安でした。でもあっという間に「怪人(ファントム)」という哀しくも美しい存在の虜になってしまったんです……!
豪華絢爛な仕掛けと、揺れ動く「三重奏」の愛
まず圧倒されたのは、作品の象徴ともいえる巨大なシャンデリアです。謎めいた浮遊感をともなって動く、あの仕掛け。一気に19世紀のパリ・オペラ座へと引き込まれた気がしました。
当初、わたしはこの物語を「クリスティーヌの不運なシンデレラストーリー」として捉えていました。怪人から歌の指導を受け、プリマ・ドンナへの階段を駆け上がる一方で、彼の激しすぎる愛憎に翻弄される悲劇というイメージだったんです。
でも物語が進むにつれ、その印象は変わっていきました。怪人は確かに残酷ですが、言葉にできないほどの「不器用さと寂しさ」も抱えています。クリスティーヌを「愛しい人」と呼びながらも、自分の支配欲が彼女をどれほど傷つけているかに気づかない。あるいは気づかないふりをしてでも、そばに置きたいという執着があるのではないでしょうか。
個人的に最も心に響いたのは、クリスティーヌが父の墓地を訪れるシーンです。そこでの彼女は、オペラ座の歌手でも、ラウルの恋人でも、怪人の教え子でもありません。亡き父を想い、孤独に震える少女でした。名曲『Wishing You Were Somehow Here Again(墓場にて)』を独唱する姿には、純粋な感情の揺らぎが溢れており、思わず胸が熱くなりました。
そしてラストシーン。「大切に想う気持ちと、ずっとそばにいることは必ずしも一致しない」というメッセージをわたしは受け取りました。クリスティーヌは怪人に感謝し、彼を憎んでいただけではないはずです。だからこそ、彼を殺そうとするラウルを必死に制止したのでしょう。愛と、哀れみと、畏怖。その複雑な感情の帰着点に、涙がこみあげてきました。
劇場という場所がくれる、心の交流
幕間での出来事も、わたしにとって忘れられません。「記事の参考にしたいな」と思い、隣席の年配のご夫婦に声をかけました。女性は劇団四季のファンで、男性は『ライオンキング』がお気に入りとのこと。「『ライオンキング』は動物の動きが素晴らしいんだよ」と語る彼の横で、彼女は「『オペラ座の怪人』は想像していたよりも難しいわね〜」と微笑んでいらっしゃいました。
ふと後ろを向くと、小中学生くらいの女の子2人が背筋を伸ばして座っています。「こんなに深い作品を楽しめるなんて、かっこいいお子さんたちですね」と、初対面の方と一緒に勝手に盛り上がってしまったのは、劇場という空間が持つ魔法のせいかもしれません。
そして迎えたカーテンコール。翌日に千秋楽を控えていたこともあり、会場の熱気は最高潮でした。
鳴り止まない拍手に応え、カーテンコールはなんと7回!つないだ手を大きく振りながら、キャストは何度も姿を見せてくれます。最後にファントムがお茶目にお手振りをし、客席から歓声が上がる光景も。役者のみなさんが見せてくれた「ひとさじの素顔」に、猛烈に胸がときめきました……!
伝統と愛を背負い、この2時間40分を完璧に作り上げたキャスト・スタッフへの敬意。客席と舞台が一体となってお互いを労うような、あの幸福な時間は、生で観劇した者にしか味わえない宝物だと思います。
観劇が私を強く、しなやかにする
終演後、ロビーで写真を撮ろうとしている親娘3人組を見かけました。普段なら自分から声をかけるなんて勇気はありません。でも、あの舞台から溢れんばかりのパワーを受け取ったわたしは、気づけば「お撮りしましょうか?」と口にしていました。
「娘がこの作品の大ファンで、広島から来たんです」うれしそうに語る彼女たちの笑顔を見て、ふと考えました。演劇は、明日を生きる力だけでなく、「自分も周りにパワーを与えられる人になりたい」と思わせてくれるものなのかもしれないと。
素晴らしい表現に触れるたび、その美しさにふさわしい自分でありたいと背筋が伸びます。作品に出会うごとに、わたしは自分をより好きになれます。強く、しなやかに進化していける気がするのです。
帰宅中、『ロングラン10周年記念キャスト』の音源を聴き返すと、劇場の空気、キャストの息遣い、あの瞬間の高揚感が鮮烈に蘇ってきました。「うわぁ、これはまた観たくなる……」と悶えながら、わたしは心から思いました。
演劇は、すべての人生を包み込んでくれる。だから私は演劇が好きで、関わる人たちが大好きだ。この魅力を伝えられる「演劇ライター」になって、本当によかったな。そんなあたたかい気持ちが、今日もわたしを包みこんでいます。
ミュージカル『オペラ座の怪人』は2026年7月5日(日)〜12月31日(木)まで、MTG名古屋四季劇場[熱田]にて上演予定です。ミュージカル史上に燦然と輝く名作を、ぜひこの機会に劇場で味わってみてはいかがでしょうか?詳しい情報は公式サイトをご覧ください。
『オペラ座の怪人』は敷居が高いと感じるかもしれません。でも観劇後、わたしの心は軽やかになり、自分をより好きになれた気がします。作品から受け取ったパワーのおかげで、初対面の方に声をかけ、温かな交流を味わうこともできました 。難しく構えずに、まずは五感でそのすごみを感じてみてください。劇場を出るころには、あなたもきっと「明日を生きる力」に満たされているはずです。



















