1964年、ブロードウェイで産声をあげた1本のミュージカルがありました。伝説のコメディエンヌ、ファニー・ブライス(1891-1951)を演じたのは、当時まだ無名だったバーブラ・ストライサンドさんでした。

彼女はこの役でスターダムへ駆け上がり、1968年の映画版ではアカデミー賞主演女優賞を受賞。「People」「Don’t Rain on My Parade」といったナンバーは、時代を超えて歌い継がれる名曲となりました。2022年、本作はおよそ半世紀ぶりに再演され、ドラマ『glee/グリー』で世界的な人気を博したリア・ミシェルさんが主演を務めたことも話題に。

そして2026年、『ファニー・ガール』がついに日本へ上陸します。本公演でファニーという大役に挑むのは、望海風斗さんです。

「元祖コメディの女王」ファニー・ブライスとは何者だったのか

ファニー・ブライスは、「元祖コメディの女王」と呼ばれた伝説的スターです。

ハンガリー系ユダヤ人移民一家の3番目の子として生まれたファニー。父は酒場で、母は毛皮工場で働いていました。ファニーは幼い頃からスターに憧れを持ち、13歳の時にブルックリンのキーニー劇場で行われたアマチュア大会で優勝しています。

しかしファニーは、自身が当時の「美人の基準」とは異なるルックスであることを自覚していました。そのため、舞台上でスターになるためには美しさではなく「面白さ」で勝負しなければと決意したのです。

そこでファニーはモノマネをはじめとしたフィジカルコメディを披露し、当時レヴューショーの第一人者として知られていたフローレンツ・ジーグフェルド率いる「ジーグフェルド・フォリーズ(Ziegfeld Follies)」で大活躍しました。多くの美女が集うフォリーズのなかで、ファニーは異色の輝きを放ったのです。

スターへの階段を駆け上るファニーの前に現れたのは、ニッキー・アーンスタイン。恋に落ちたふたりは結婚し、子どもたちにも恵まれました。しかし1920年、ニッキーが強盗容疑によって逮捕されてしまいます。その後もニッキーとの夫婦関係を続けたファニーでしたが、1927年、ついにふたりは離婚することになりました。

1921年に発表された「My Man」は、コメディアンとしての仮面を投げ捨て、ひとりの女性としての切なさを歌った名曲です。ファニーの人間味溢れるこの曲は、多くの観客の心を掴みました。

そんなファニー・ブライスの生涯をミュージカルにした『ファニー・ガール』は、彼女の激しい人生と、栄光と喪失の二面性を描いた味わい深い作品といえるでしょう。

望海風斗×坂本昌行、マイケル・メイヤーの演出で夫婦役に挑む

今回『ファニー・ガール』の演出を務めるのは、ミュージカル『春のめざめ』でトニー賞ミュージカル演出賞を受賞し、近年はメトロポリタン・オペラで『椿姫』や『アイーダ』などを手がけたマイケル・メイヤーさんです。

メイヤーさんは、2022年のリア・ミシェルさん主演版でも演出を手がけています。彼の代表作から読み取れるように、メイヤーさんは古典的、あるいは長年にわたり愛されてきた作品を、現代の感性で蘇らせる名手と言えるでしょう。

半世紀ぶりの上演である『ファニー・ガール』を見事に生まれ変わらせた彼が、日本版ではどんな作品作りに挑むのかが注目ポイントのひとつです。

そして、ヒロインであるファニーを演じる望海風斗さんは、第33回読売演劇大賞の最優秀女優賞、文化庁芸術選奨文部科学大臣新人賞を受賞し、現在最も勢いのある俳優のひとりです。

受賞のきっかけのひとつとなった『マスター・クラス』では、20世紀最大の歌姫と呼ばれたマリア・カラスを演じました。世界的歌姫の次は、元祖コメディエンヌを演じる望海さん。同じ「スター」でも、それぞれの人生は大きく異なります。ファニー役を通じて、今度はどんな「スター」の光と闇を演じるのでしょうか。

ファニーの夫であり賭博師のニックを演じるのは、『THE BOY FROM OZ』『凍える』で第48回菊田一夫演劇賞を受賞した坂本昌行さん。舞台主演歴も豊富な坂本さんが、ミュージカル界のスターであるラミン・カリムルーさんも演じたこの役に挑みます。ミュージカルファンにはたまらない配役となることでしょう。

『ファニー・ガール』の速報PVでは、ファニーとニックに扮した望海さんと坂本さんが登場しています。ともにミュージカル界での活躍を続けるふたりのタッグが楽しみです。

ファニーを取り巻く人々を演じる豪華キャスト

そのほか、共演キャストにも豪華な俳優陣が揃っています。

ミュージカル『ウェイトレス』をはじめとした作品で活躍する水田航生さんが演じるのは、ファニーの無名時代から彼女を支えるダンサー、エディ・ライアン。水田さんは今回、タップダンスを披露します。

ファニーを見出すプロデューサー、ジーグフェルドを演じるのは益岡徹さん。益岡さんは、2026年3月に上演された舞台『大地の子』の演技で高い評価を受けました。

さらに、ファニーの母親であるブライス夫人役に中尾ミエさんがキャスティングされています。ブライス夫人は、ファニーのことを常に冷静な目で見つめる重要な人物です。2022年にミュージカル『ピピン』にて主人公の祖母・バーサを演じた中尾さんが、今度はどんな母親像を生み出すのでしょうか。

第21回読売演劇大賞優秀女優賞を受賞した高泉淳子さんは、ブライス夫人のポーカー仲間であるストラコシュ夫人を演じます。以上の豪華キャストが、望海さん演じるファニーにどんな影響を与えるのか、開幕を前に期待が高まります。

ブロードウェイミュージカル『ファニー・ガール』は、2026年9月8日(火)から29日(火)まで、東京・日生劇場で上演されます。
その後、全国公演が以下のスケジュールで行われます。

【大阪】梅田芸術劇場メインホール:10月9日(金)〜18日(日)
【福岡】博多座:10月24日(土)〜11月1日(日)
【愛知】御園座:11月10日(火)〜15日(日)

公式HPはこちら

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糸崎 舞

日本版の『ファニー・ガール』が観られるなんて、クラシックミュージカル好きには非常に嬉しいニュースです。バーブラ・ストライサンドさんやリア・ミシェルさんが演じてきたファニー役を、望海さんはどう表現するのでしょうか。