ミュージカルって突然歌い出すから苦手、という人もいますよね。でも舞台上の主人公たちは、歌があるからこそ普段は恥ずかしくて言えないような愛も言えてしまう。音楽と言葉の組み合わせであるミュージカルは、私たちの心をうつすためのものなのかもしれません。今回は、言葉を失った少女がミュージカルに挑むアニメ作品『心が叫びたがってるんだ』をご紹介します。

心の殻に閉じ込めてしまった素直な気持ち、本当は叫びたいんだ

「地域ふれあい交流会」でのクラス実行委員に選ばれた主人公、順。彼女は、幼い頃何気なく発した言葉によって家族がバラバラになってしまったことがトラウマで、話せなくなってしまっていました。「交流会なんて面倒くさい」という空気の中、出し物はミュージカルに決定。話すこともできないのにミュージカルなんてできないと決めつけるクラスメイトを前に、順は歌う。「私はやれるよ!」と。

話せない少女が他の実行委員をはじめとするクラスメイトたちの心を動かし、彼らが一つの舞台に向かって懸命に努力をする姿はまさに青春の群像そのもの。仲間同士の絆が深まっていくにつれて次第に現れる高校生らしい淡い恋心は、観ていて少し気恥ずかしく、でもそれをどうしたって応援したくなってしまいます。

ミュージカルが私たちの心を揺さぶる理由とは

このアニメは青春の物語であると同時に、言葉についての物語でもあります。「言葉は傷つけるんだから。絶対にもう取り戻せない」というのは作品中の順の言葉です。彼女自身が他愛もない言葉で身近な人を傷つけてしまった経験があるからこそ、この言葉には重さを感じます。

熱く口論をしていたら思わず口をついて出てしまったけれど本心ではなかった、というような苦い体験は、誰でも経験があるはず。口に出すことは簡単でも、傷つけてしまった相手の心は二度と修復できない。そんな苦い経験を思い出しては、なお物語に共感し、のめり込んでしまいます。

順はきっと、誰よりも言葉の重さを知っているからこそ、その怖さを知って言葉を紡げなくなってしまったのかもしれません。でも彼女はミュージカルと出会い、言葉を歌にしていく。言葉と音楽には、私たちの感情を伝える力がある。だからこそミュージカルというものは私たちの心を揺さぶるのだと思います。

Asa

実は『心が叫びたがってるんだ』というアニメは、『あの日見た花の名前を僕たちはまだ知らない』通称「あの花」の製作陣が再集合した、肝煎りのアニメ。2017年には、中島健人さん、芳根京子さんなどにより映画化もされました!数々の名曲に彩られる、夏の終わりにぴったりな青春の物語です。