梅雨明けし、蒸し暑い昨今。だけれど、雨が降り続くのは憂鬱で。心地よく過ごせる天気、というのは限られているのだなと感じる季節です。そんな時期に手に取ったコンセプトアルバム『雨が止まない世界なら』。全体が1つのテーマでありながら、楽曲ごとに物語が異なるソングサイクル形式のミュージカルを、耳で楽しみました。コンセプトアルバムレビュー①はこちら
“誰も知らないのに知ろうとしない”
「ある日降り始めた奇妙な雨がずっと降り止まなかったら、人は何を歌うだろう」。俳優・西川大貴さんがコロナ禍に掲げたこのテーマをもとに作られた、コンセプトアルバム『雨が止まない世界なら』。
コロナ禍初期、信憑性の曖昧な情報が行き交っていたあの時。きっとすぐに収まるだろうと思っていたのに、事態は好転するどころか悪化していき、先が見えない日々が続いたあの時。私たちはまさに、“雨がずっと降り止まない”ような奇妙さと不安に包まれて過ごしていたように思います。
そんな気持ちにスッと入ってきた楽曲が、降り止まない雨は宇宙人からのメッセージだと考える男が歌う楽曲「知ろうとしない」。鈴木壮麻さんの深みある歌声で、困難に直面した時、現実から逃げようとする人間の心理をつきます。“誰も知らないのに知ろうとしない” “人は学ばない、痛い目見たとしても” “忘れたい、自分は関係ない。傷はついていても”。私たちはコロナ禍から学び、当事者意識を持って、前に進めているだろうか。元の世界に戻るのではなく、この世界をより良くしようと動けているだろうか。そう考えさせられる一曲です。
心を明るく照らす「We’re Singin’ in the Rain」
鬱々とした気持ちをカラッと晴れさせてくれたのは、昆夏美さんと雨が止まない合唱団が歌う「We’re Singin’ in the Rain」。力強く明るい昆さんの歌声が、心を引き上げてくれます。雨の日に、カラフルな傘たちが舞い、子供たちとタップダンスを踊る。そんな華やかなイメージが湧き上がってきます。
“世界は逃げないよ” “頭空っぽにして” “理由なんていらないだろう、踊ろう、さあ一緒に”。辛い時、悲しみに暮れた時、この楽曲のように明るく華やかなミュージカルの世界に触れることで、自分の人生が救われてきたことを思い出しました。
葛藤を抱えながら、前に進む背中を押してくれる「舟を漕ごう」
水上タクシーの運転手の仕事をする男が歌う、「舟を漕ごう」。雨が降り続いたことで新たにできた職業です。ずっと続けてきた仕事を辞めて、生きるため、変化した世界に対応し、働く。心の中に葛藤や迷いを抱えながら。
コロナ禍やAIの発達など、時代の変化によって無くなる職業もあれば、新たに生まれる職業もあります。飲食業界や演劇業界を始めとする様々な業界がコロナ禍により苦難を迎え、泣く泣く夢を諦めたり、働き方を変えざるを得なかったりした人も多いでしょう。もし自分がやりがいを持っている仕事が、自分一人ではどうにも変えられない理由で、続けられなくなってしまったとしたら。
やるせない気持ちに、西川大貴さんの声がそっと寄り添います。“自分のために生きているなら、満足な人生じゃないでしょう。でも誰かを守るためならば、今日も舟を漕ごう。すすんで船を漕ごう”。自分自身の夢が、思い描いた通りに叶わなかったとしても、誰かのために役立てているという感覚は、前に進む活力をくれるのかもしれません。
海宝直人さんや咲妃みゆさん、土居裕子さんら豪華キャストが集結したソングサイクル・ミュージカル『雨が止まない世界なら』コンセプトアルバムの購入はこちらから。
様々な境遇の人の視点から、“雨が止まない世界”を味わえるアルバムでした。水上タクシーの運転手をする前は、何をしていたのだろう?など、主人公の背景を想像しながら楽曲をじっくりと楽しめました。