日々、多くの作品が上演されている小劇場演劇。どれを観たらいいのかわからないという方も多いのではないでしょうか。今回は、演劇を愛するAudience編集部が独断と偏見で、3月に上演している作品の中からおすすめ作品を3本セレクトしてみました!
「“友達”についての演劇を“友達”と一緒に」いいへんじ『友達じゃない』
いいへんじは、早稲田大学出身の中島梓織さん、飯尾朋花さん、小澤南穂子さんによる演劇団体で、2016年の11月に結成、2017年の6月に旗揚げされました。個人的な感覚や感情を問いの出発点とし言語化にこだわり続ける脚本と、くよくよ考えすぎてしまう人々の可笑しさと愛らしさを引き出す演出で、個人と社会との接点を見出します。
吉村は、北区周辺で路上ライブをしている売れないシンガーを追っかけることだけが生きがいで、友達だと思える人がいないことがコンプレックス。ある日、いつものように赤羽駅前で彼の歌を聴いていると、偶然通りすがった真壁という女性に出会います。「また会えるかも」と軽やかに去っていく彼女と、吉村は「友達になりたい」と思い…。
中島梓織さんは上演にあたり、「“友達”についての演劇を“友達”と一緒につくります。一人の人間として無視できなかった感情と、一人の団体主宰・劇作家・演出家として無視できなかった問い。一人では考えられないことだから、みなさんとたくさん話をして、向き合いたいと思っています」とコメント。
また、「いまは、できるだけ小さな物語の中へ、狭く深く潜りたい。普段は見て見ぬふりをしてしまう、心の柔らかいところに触れる瞬間をつくりたい。でもそれって、安心だと思える場所だからこそできることだと思うから、どうやったら、全員にとってそういう場所をつくることができるのかも考えたい」と心境を語っています。
※作中に希死念慮・自傷行為を連想させる表現が含まれます。不安のある方には、該当シーンの脚本データの送付や途中退席しやすい席の用意も可能とのことです。
いいへんじ『友達じゃない』は3月20日(水)~3月24日(日)に東京・北とぴあ ペガサスホールにて上演です。詳細は公式HPをご確認ください。
カミュの未完の小説をモチーフにした新作公演 カンパニーデラシネラ『the sun』
カンパニーデラシネラは、2008年に、小野寺修二さんのセルフユニットとして設立された団体。
身体性に富んだ演劇作品を創作し、マイムをベースとした独自の演出は、世代を越えた注目を集めています。また小中学校巡回公演や高校の芸術鑑賞会など、次世代へのアプローチにも積極的に取り組み、野外や美術館、アートフェスティバルなど、劇場内にとどまらない場所でのパフォーマンスや海外での公演も多く行っています。
小野寺さんは、2月に上演された『「大誘拐」〜四人で大スペクタクル〜』、そして3月8日(金)から東京芸術劇場で上演される『リア王』ではステージングを務めるなど多彩に活動しています。
今回カンパニーデラシネラが上演するのは、『異邦人』や『ペスト』『カリギュラ』などで知られるアルベール・カミュの未完小説をモチーフにした、尊厳と誇りと家族についての物語『the sun』。“観る人の記憶を掘り起こす70分”の上演です。
今作は、音曲師の桂小すみさんを迎え、 三味線等の生演奏で新たなイメージの具現化に挑戦します。また、ろう者俳優の數見陽子さんの出演もあり、物語の視覚化の独自性を探ります。
カミュの未完の小説『最初の人間』は、彼の遺作でもあり、自伝的小説とも言われています。1994年に未完のまま出版され、フランスでは60万部を売り上げるベストセラーを記録しました。
『最初の人間』の舞台は1957年。40代の小説家のコルムリはアルジェリアにいる母を訪ねにいきます。
これは、貧しい家庭に育った彼の複雑な生い立ちをたどる旅であり、かつて紛争状態にあったフランスとアルジェリアの和解を模索していた過去の自分と向き合うことなのでした…。
映画化もされた『最初の人間』が、どの様に変化し、演劇作品へと変貌を遂げるのでしょうか。カンパニーデラシネラ『the sun』は、3月22日(金)〜3月24日(日)に東京・シアタートラムにて上演です。詳細は公式HPをご確認ください。
コピー人間に、魔改造された恐竜、そして10人の若者たちの生活を瑞々しく描く 南極ゴジラ『(あたらしい)ジュラシックパーク』
「南極ゴジラ」は2020年に誕生した、9人+1台の劇団。インスタライブを活用した生配信劇や、写真家やバンドが舞台上で俳優とセッションするなど、演劇を観たことがない人でも楽しめる作品を発表。2022年には小劇場の若手団体が多く参加する佐藤佐吉賞において、「最優秀作品賞」「最優秀賞演出賞」など異例の5部門での受賞を果たした注目の劇団です。
南極ゴジラの新作『(あたらしい)ジュラシックパーク』は、映画『ジュラシック・パーク』のテーマである“テクノロジーの暴走”を、南極ゴジラらしくゆかいに突破する、ワンダフルであたらしいSF青春群像劇です。
恐竜が絶滅して6500万年、恐竜を生き返らせて27年の世界。
映画ジュラシック・パークをモデルに誕生した、恐竜を生で見ることができるテーマパーク《ジュラシックパーク》は、開園から長い年月が流れ、客足は減少の一途をたどっていました。
そこで、起死回生のリニューアル計画が始動!しかし、そんな中、園内ではマジカルな新恐竜や怪しいセールスマンの登場、Wi-Fi の不調、そして奇妙な姿かたちをした人間が目撃されはじめ…。
ジュラシックパークで生まれ育ち、小型草食恐竜管理室で働く主人公・湾田ほんとを軸に、 一等賞の同僚、いつも着ぐるみの友人、怪しいセールスマン、 かつての映画スター、冷血動物症の科学者など、 登場人物10人の瑞々しい生活を描き出します。
脚本・演出を担当しているのは、こんにち博士さん。SF的なモチーフで奇妙奇天烈な世界観と私的・詩的な人間賛歌が融合する作風が特徴。佐藤佐吉賞2022では、最優秀演出賞、優秀脚本賞を受賞しましたまた、現在上演中の泊まれる演劇の新作イマーシブシアター『Moonlit Academy』の脚本も務めています。
こんにち博士さんは上演にあたり以下のようにコメントしています。
「南極ゴジラは2020年に『贋作ジュラシックパーク』という題名でジュラシックパークを舞台にした作品を上演しました。これが劇団化して初めての本公演だったのですが、4年が経ち、5回目の本公演としてまたジュラシックパークの劇をやることになりました。題名は『(あたらしい)ジュラシックパーク』です。
僕は子どもの頃から恐竜が好きでスピルバーグ監督の映画「ジュラシック・パーク」もDVDが傷だらけになるほど観てきて、『贋作〜』は、そんな、好きだ!ロマンだ!という想いを詰め込んだ公演でした。それからの4年間で社会環境や科学技術も大きく変わりましたし、自分自身のものごとに対する感じ方や劇団としての作りたいものもアップデートを繰り返してきたように感じます。
『(あたらしい)ジュラシックパーク』は、恐竜大好き!みたいな気持ちからは少し俯瞰的になって、ロマンと現実のギャップに焦点を当てます。ジュラシックパークという特殊すぎる空間の中で、普段の南極ゴジラとさほど変わらない登場人物たちが生活をしていて、そんな中に、ワンダフルなおかしさや切なさが溢れている演劇です。劇団員が10人とも出演します。最高の作品にします。ぜひ楽しみにしていてください!」
南極ゴジラ『(あたらしい)ジュラシックパーク』は、3月28日(木)〜3月31日(日)まで東京・王子小劇場にて上演です。平日の上演回には入場者プレゼントも!詳細は公式HPをご確認ください。
皆さんの注目作品も是非教えてください!