アラン・メンケンさんは、「ディズニー・ルネッサンス」と呼ばれる黄金の時代をけん引した、世界的に有名な作曲家のひとりです。メンケンさんの手がけた音楽はスクリーンを飛び出し、ブロードウェイに進出することもしばしば。ロンドンの演劇街ウエストエンドでは、2026年9月まで『ヘラクレス』が上演中です。今作は1997年に公開されたディズニー映画の舞台版で、新たに書き下ろされた脚本に加え、メンケンさんの新曲も追加されています。

本記事では、『リトル・マーメイド』や『美女と野獣』、そして『アラジン』など、日本でも人気の高いディズニーの名曲を生み出し続けたメンケンさんの功績や、知られざるキャリアについて特集します。

ディズニーの名作を彩り続けたアラン・メンケンの音楽

多くのミュージカルファンに知られているように、アラン・メンケンさんはディズニーの伝説的存在であり、アカデミー賞受賞歴は8回に及びます。また、グラミー賞を11回、トニー賞とエミー賞を1回ずつと、世界中の名誉ある賞を受賞した経歴を持ちます。

アラン・メンケンさんの主な作品は、以下の通りです。

【ディズニー映画作品】
『リトル・マーメイド』(1989年)
『美女と野獣』(1991年)
『アラジン』(1992年)
『ポカホンタス』(1995年)
『ノートルダムの鐘』(1996年)
『ヘラクレス』(1997年)
『魔法にかけられて』(2007年)
『塔の上のラプンツェル』(2010年)

【舞台・ミュージカル作品】
『リトル・ショップ・オブ・ホラーズ』(1982年 オフ・ブロードウェイ初演)
『天使にラブ・ソングを~シスター・アクト~』(2009年 ロンドン初演)
『ニュージーズ』(2012年 ブロードウェイ初演)

ディズニー映画では、これまでに『リトル・マーメイド』、『美女と野獣』、『アラジン』、『ポカホンタス』、『ノートルダムの鐘』、『ヘラクレス』など、数えきれないほどの劇中歌を世に送り出してきました。

そのほか、実写とアニメーションの融合が話題になった『魔法にかけられて』や、ディズニー作品の中でも人気の高い『塔の上のラプンツェル』の音楽も手がけています。

さらに2023年に公開された実写版『リトル・マーメイド』では、メガヒットミュージカル『ハミルトン』を生み出したリン=マニュエル・ミランダさん(作詞担当)とともに劇中音楽を担当しました。

 また、メンケンさんが作曲した名作の多くは、実写版映画化やミュージカル化されています。日本でも、劇団四季による『美女と野獣』『リトル・マーメイド』『アラジン』『ノートルダムの鐘』などが上演され、多くの観客に感動を与え続けています。

『シスター・アクト』『ニュージーズ』など、ブロードウェイでも活躍

そのほかにも、メンケンさんは数多くのミュージカル作品の音楽を手がけています。

たとえば、日本でも大ヒットした映画をミュージカル化した『天使にラブ・ソングを~シスター・アクト~』。映画で主演したウーピー・ゴールドバーグさんがプロデューサーを務めた本作は、2009年にロンドンで開幕後、2011年にブロードウェイに進出、2014年には日本初演を迎えました。

クラブ歌手デロリスが、ある事件に巻き込まれたことで修道院へと身を寄せるところから始まるこの物語。舞台版のためにメンケンさんが書き下ろした楽曲を中心に、ゴスペルや聖歌はもちろんのこと、ソウルやロカビリーなど、心躍る音楽が全編を彩ります。

2021年に日本で初演され、第29回「読売演劇大賞作品賞」にも輝いたブロードウェイミュージカル『ニュージーズ』の作曲も手がけたメンケンさん。本作はディズニーの大ヒットミュージカルで、ブロードウェイ初演時にトニー賞、ドラマ・デスク・アワードを獲得するなど大きな話題となりました。

1899年のニューヨークを舞台に、孤児やホームレスの新聞少年たち「ニュージーズ」が、厳しい現実の中で生きる姿を力強く描いた本作。メンケンさんの音楽が躍動感あふれるダンスと融合し、日本でも評判を博しました。

アラン・メンケンが生み出す音楽の魅力とは?

メンケンさんの楽曲の魅力は、その多彩さにあります。

たとえば「ホール・ニュー・ワールド」(『アラジン』)や「美女と野獣」(『美女と野獣』)などのラブソングは、物語の世界に没入してしまうほどロマンチックな旋律です。

『アラジン』では貧しい青年アラジンと自由を求める王女ジャスミンの恋が、『美女と野獣』では“変わり者”と揶揄されるベルと野獣に姿を変えられた王子の恋が描かれます。どちらも異なる世界の住人同士が惹かれ合うストーリーであり、メンケンさんの生み出すメロディは、聴く人を恋の世界へと引き込みます。

カリブ海の島々で生まれた音楽“カリプソ”の軽快なリズムで奏でられる「アンダー・ザ・シー」(『リトル・マーメイド』)は、海の宮廷音楽家であるカニのセバスチャンが、海の底の自由で豊かな生活を歌う名曲です。

ロマンチックなラブソングを手がける一方で、つい踊り出したくなる陽気な音楽を生み出したメンケンさん。「アンダー・ザ・シー」はメンケンさんにとって初めてのアカデミー賞受賞作となりました。

人間の世界へ落とされてしまった神の子の冒険を描いた『ヘラクレス』では、ギリシャ神話を題材としながらもブラック・ゴスペルの力強いメロディで歌い上げる「ゼロ・トゥ・ヒーロー」が印象的です。メンケンさんは世界中のあらゆる音楽を駆使し、作品の世界観を唯一無二のものにしています。

そして、アカデミー賞を受賞した「カラー・オブ・ザ・ウィンド」(『ポカホンタス』)は、作品作りにも大きな影響を及ぼしました。

『ポカホンタス』は、17世紀初頭のアメリカを舞台に、先住民族パウアタン族の娘・ポカホンタスと、イギリス人探検家のジョン・スミスが出会い、異文化にふれて心を通わせる物語です。

ディズニーとしてはじめて歴史上の逸話を題材にした本作。「カラー・オブ・ザ・ウィンド」が映画全体のテーマを決める手助けとなり、音楽が作品に及ぼす影響力の大きさを証明しました。

作詞家・アッシュマンと築いた黄金時代

メンケンさんは、1949年にアメリカ・ニューヨークで生まれました。

NYUで音楽を学び、1972年に卒業したあとは著名な指揮者リーマン・エンゲルに師事。ミュージカル音楽家としてのキャリアをスタートさせます。

1978年、作詞家のハワード・アッシュマンさんと出会ったメンケンさんは、翌年の舞台『God Bless You, Mr. Rosewater』で最初の成功を掴みます。この作品は、メンケンさんとアッシュマンの生涯にわたるパートナーシップの始まりとなりました。

1982年に上演された『リトル・ショップ・オブ・ホラーズ』が5年間のロングランを記録し、本作は当時のオフ・ブロードウェイ作品の最高興行記録を更新しました。メンケンさんとアッシュマンさんはこの成功を受け、1989年に『リトル・マーメイド』の作詞・作曲を手がけることになったのです。

『リトル・マーメイド』では30年ぶりにプリンセスを主役にし、数々の名曲によって当時低迷していたディズニースタジオを再興させました。この時期は後に「ディズニー・ルネッサンス」と呼ばれる黄金時代の幕開けとなります。

「パート・オブ・ユア・ワールド」(『リトル・マーメイド』)のように、主人公が自らの望みを歌う「I want song(アイ・ウォント・ソング)」がメンケンさんとアッシュマンのアイコンとなりました。

1991年にアッシュマンが亡くなった後、メンケンさんは作品ごとにさまざまな作詞家と音楽を生み出し続けました。『アラジン』の「ホール・ニュー・ワールド」ではティム・ライスさん、『ポカホンタス』『ノートルダムの鐘』『魔法にかけられて』ではスティーブン・シュワルツさんなど、多くの才能ある作詞家とタッグを組みました。

メンケンさんの美しい旋律に触れることは、私たちの心に豊かな体験をもたらしてくれることでしょう。これからも、その唯一無二の音楽が生まれ、愛され続けることを願います。

糸崎 舞

メンケンさんの作曲したミュージカルソングの数々は、何度聴いたか数え切れないほどです。子供の頃から聴いていたあの音楽を、今は自分の子供と一緒に聴いています。時を越えて愛される音楽の力を思わずにはいられません。