9月21日(月・祝)より東京芸術劇場 プレイハウスで開幕の舞台『リア王−KING LEAR−』。老境を迎える王が、権力も領土も娘たちの愛も全て失って転落するさまを描くシェイクスピアの名作悲劇に、演出・森新太郎さん、主演・内野聖陽さんのタッグで挑みます。開幕を前に、公開ゲネプロが行われました。
良い時代は過ぎ去ったー
真っ白いキャンバスのようなステージに現れたのは、モップを手にしたエドマンド(前田公輝さん)。現代的でシンプルな服装の彼に比べ、父グロスター(山路和弘さん)やケント(杉本哲太さん)は銀の重厚なマントを羽織り、彼らの“身分違い”を示唆します。

リアの長女ゴネリル(川上友里さん)、次女リーガン(内田慈さん)、三女コーディリア(清水くるみさん)ら王家の人間はゴールドのマント。とりわけリア王(内野聖陽さん)は巨大なゴールドのマントを身につけ、その威厳を視覚的に表現しています。

内野聖陽さん演じるリアは、悪戯っぽい微笑みと共に、娘たちに愛を問う姿が印象的。従来多くの俳優によって演じられてきた気性の荒い人物というよりも、陽を含めた感情豊かな人物として映りました。

掲げられた地図を見るとあらかじめコーディリアに豊かな領土を渡そうとしていたことは明白で、本当にただただ、彼女から“良い言葉”を聞きたかったのだと感じられます。
若い頃はそのユーモアと威厳で、多くの臣下を惹きつけていたであろうリア。だからこそ、彼が愛していたはずの末娘コーディリアに対する激昂はあまりに唐突です。

ケント伯爵は真っ向からリアの感情的な決断に疑問を呈しますが、リアは聞き入れることができません。発言は撤回しないという、若き頃は信頼を集めた理由の1つであろうリアの王たる信念も、悲劇を引き起こした要因へと変化してしまったのでしょうか。

ゴネリルとリーガン、コーディリアの3姉妹の関係性が従来より友好的なのも印象に残ります。ゴネリルとリーガンはリアの“老害”に対する恐怖ゆえ、またリアのあまりにきつすぎる呪いの言葉ゆえ、言動が変化していくように感じられました。

清水くるみさんはコーディリアと道化の2役。コーディリアが追放されたことに気落ちして道化が姿を現さない描写もあるように、清水さんの2役は非常に意義深いものです。

また軽やかに舞台上を駆け回る姿が、リアが呼びかける“小僧”という言葉に納得感を持たせます。道化はリアに真理を伝え続け、リアがマントを脱ぎ捨てた時、寒さを凌ごうと彼のマントを手繰り寄せます。

リアの重臣グロスターの息子、エドマンドとエドガー(井之脇海さん)の兄弟も、物語を大きく動かす人物たち。


前田公輝さん演じるエドマンドの野心の強さももちろんですが、エドガーの疑いを知らぬ無垢な姿が対比的です。いかにグロスターが息子たちを理解していなかったか…もしくは本人不在の間に真偽不明の“手紙”を証拠に事が進んでいくさまは、現代のSNS社会にも通ずるのかもしれません。

次第に真っ白なキャンパスに飛び散っていく血の数々。人々の疑念と欲望が混ざり合い、増大していく悲劇。その光景は時代を超え、国境を超え、現代の私たちに迫ってきます。
演出家・出演者コメント到着
初日を前に、演出・森新太郎さんと、内野聖陽さん、前田公輝さん、井之脇海さん、杉本哲太さんのコメントが到着しました。
森新太郎 [演出]
今の気持ちをどう語ればよいのか。正気を失ったリアのように、荒野を彷徨い続けている、そんな心境です。 行けども行けども、果てが見えない。演出家として、こういう経験は滅多にありません。いよいよ開幕です。
皆様と共に、この風雨にけぶる荒野の先へと足を踏み出せたらと思います。劇場にてお待ちしております。
内野聖陽 [リア王 役]
いよいよ開幕です!
この作品が持つ現代性は、多くのところで語られています。
でも、僕がこの作品への理解を深める中で感じてきたことは、人間という動物の愚かしさや哀しさ、そして、面白さです。
古代ブリテン王国というおとぎ話の中にどっぷりと浸かって楽しんで頂けるよう、最後まで頑張りたいと思っています。是非劇場でお楽しみください。
前田公輝 [エドマンド 役]
経験豊かな先輩方に囲まれ、森さんの演出のもとで、これまで挑戦したことのないお芝居や表現方法に触れ、日々新しい体験をさせていただいております。
17世紀から現代にも通ずる、シェイクスピアの悲劇『リア王』が描く真実と愛の物語。ぜひ劇場でその世界をご体感いただき、いつの間にか作品へ没入しているような時間を楽しんでいただけたら嬉しいです。
井之脇 海 [エドガー 役]
エドガーの背負っている悲哀は、とてつもなく深く、どう自分の中に落とし込むか、迷って、試して、また迷って。稽古期間は、ひたすらその繰り返しでした。
ですが、今まで知らなかった自分と出会えている感覚もあり、森さんの演出にも助けていただきながら、僕らしいエドガーが生まれてきている手応えがあります。
本番も全力で生き抜いて、最後までエドガーと向き合いたいと思います。
ぜひ、劇場に観に来てください!
杉本哲太 [ケント伯爵 役]
シェイクスピアのリア王と言う大作に参加できることに大きな喜びと同時に身の引き締まる思いがあります。
私が演じますケントという役は非常に強い忠誠心を持った人です。周囲の人間関係がどんどん崩れていく中で最後までリアを見捨てないその愚直さというか、不器用なほどの愛情がケントという人物なのかと‥
親子の愛や、裏切り、老い、孤独、そして人を信じることなど、今を生きる私たちにも身近な感情だと思います。難しく考えず、登場人物たちのぶつかり合いや揺れ動く心を感じていただけたら嬉しいです。

舞台『リア王−KING LEAR−』は2026年9月21日(月祝)から10月4日(日) まで東京芸術劇場 プレイハウス、10月8日(木)から9日(金)までりゅーとぴあ新潟市民芸術会館・劇場、10月17日(土)から18日(日)まで刈谷市総合文化センター 大ホール、10月23日(金)から25日(日)まで兵庫県立芸術文化センター 阪急 中ホール、10月28日(水)に岡山芸術創造劇場 ハレノワ 中劇場、10月31日(土)から11月1日(日)までJ:COM北九州芸術劇場 大ホールにて上演が行われます。公式HPはこちら
奇しくも台風の吹き荒れる夜に開幕した『リア王−KING LEAR−』。娘たちの仕打ちに失望し、「風よ吹け」とリアが立ち向かったのも、こんな激しい雨と風だったのだろうかと思いを馳せずにはいられません。ゴネリルとリーガンの“引退したリアに100人の家臣は多すぎる”という言い分はもっともです。しかしリアの“必要を言うな”という台詞にはいつも考えさせられます。“不要不急”が取り除かれた世界では生きた心地がしなかったことを、身を持って体験しているからです。




















