2026年6月12日(金)から上演中の『ウェンディ&ピーターパン』、7月27日(月)から上演される夏の定番ミュージカル『ピーター・パン』。この夏は、ピーター・パンを主人公にした作品の上演が続きます。

さらに2027年1月には、ピーター・パンの作者であるジェームズ・マシュー・バリ(1860-1937)を主人公にした『ファインディング・ネバーランド』が上演されます。

世界を代表する名作のひとつであり、おそらく誰もが知っている「永遠の少年」ピーター・パン。彼を生み出したバリは、どんな人物だったのでしょうか。本記事では、バリの生涯と『ピーター・パン』誕生秘話を解説します。

ピーター・パンの生みの親、バリが辿った「書く人生」

ジェームズ・マシュー・バリは、1860年にスコットランドのアンガス州に生まれました。

父は織物職人で、一家には10人の子どもがいました。生活は困窮していましたが、母マーガレットの熱心な教育により、バリは心豊かな幼少期を過ごしたといいます。

その後、バリは18歳でエディンバラ大学へ入学し、文学修士号を取得します。20代は記者として多くの雑誌に寄稿し、ジャーナリストとしての顔を持っていました。27歳で初めての小説『死んだ方が良い』を執筆して以来、いくつかの小説を書き続けました。

30代になってからは、小説の他に劇作も始め、演劇と深く関わり合う人生へと歩みを進めました。そんなバリがピーター・パンを誕生させたのは、意外にも40代に突入してからでした。

バリはピーター・パンを生み出した後も多くの劇や小説を精力的に発表し続け、作家としての功績を認められて准男爵に任ぜられました。この時、バリは53歳でした。

さらに62歳となった1922年には「メリット勲章」を授与されます。これは世界中でたった24人にしか与えられないという、非常に名誉ある勲章だったのです。バリは77歳で亡くなる前年まで、多くの小説や劇を生み出し続けました。

そんなバリの人生に、『ピーター・パン』の物語はどんな影響を与えたのでしょうか。

ピーター・パンとは誰なのか?大人になれなかった実在の少年たち

バリがピーター・パンというキャラクターを創作した背景には、ある少年たちの存在がありました。

まずは、13歳で亡くなったバリの実兄デイヴィッドです。兄が亡くなってからの家族の悲しみは非常に深いものでした。特に、バリの母マーガレットの心の中には、ずっと少年時代のデイヴィッドが生きていたといいます。「少年時代のまま歳を取らない兄」というイメージが、後年のバリにピーター・パンのインスピレーションを与えたとされています。

また、バリが家族ぐるみで親交を深めていたデイヴィス家の5人の息子たちも、ピーター・パン誕生に大きく関わっています。バリは「ジムおじさん」として子どもたちに慕われ、彼らにさまざまな物語を作って楽しませました。

やがて、デイヴィス家を悲劇が襲います。父・アーサーが病気で世を去り、その3年後には母・シルヴィアも亡くなってしまったのです。そこでバリは、彼らの死後、5人の子どもたちの後見人となり、経済的に支えることを決めました。しかし、幸せな生活は長くは続きませんでした。1914年に第一次世界大戦が勃発したのです。

デイヴィス家の長男ジョージはイギリス陸軍の士官として、わずか21歳という若さで戦死しました。さらに1921年には、4男マイケルが水難事故によって亡くなったのです。マイケルはピーター・パンのキャラクター造形に最も影響を与えた存在だったと言われています。

大人になることができなかった、あるいは非常に若い時期に亡くなってしまった身近な少年たち。彼らの存在が「永遠の少年」ピーター・パンに与えた影響はどれほど深いものだったのでしょうか。

何度も生まれ直していたピーター・パン

多くの人が頭に思い浮かべるピーター・パンは、緑の服と羽のついた帽子を身に着け、短剣を腰に差し、妖精ティンカーベルと一緒に空を飛び回る少年でしょう。現在の私たちが最も身近に感じるこのイメージは、1904年初演の『ピーター・パン、あるいは大人になろうとしない少年』に登場する彼の姿です。

実は、生後7日のピーター・パンが公園でさまざまな大冒険をする『小さな白い鳥』(1902年に出版)、それに修正を加えて1906年に出版された『ケンジントン公園のピーター・パン』など、バリの書いた物語では、いくつかの異なる姿を見せています。

さらにバリは1911年に小説『ピーター・パンとウェンディ』を出版し、この小説版によってピーター・パンのイメージが広く知られるようになりました。永遠の少年は、バリの筆のなかで何度も生まれ直していたのかもしれません。

参考書籍:
『ピーター・パン』作:J.M.バリ、訳:厨川圭子(岩波少年文庫)
『ロスト・ボーイズ J・M・バリとピーター・パン誕生の物語』著:アンドリュー・バーキン、訳:鈴木重敏(新書館)
『ヴィジュアル注釈版 ピーター・パン(上・下)』作:J.M.バリー、編:マリア・タタール、日本語版監修:川端有子、訳:伊藤はるみ(原書房)

糸崎 舞

バリの生涯や5人の子どもたちとのエピソードを知ると、『ピーター・パン』という物語が単なるおとぎ話ではなく、もっと味わい深いものに思えてきました。2027年1月に上演される『ファインディング・ネバーランド』は、バリの内面が深く掘り下げられる作品です。バリ自身に興味を持たれた方は、ぜひ観劇していただければと思います。